濃青色に握りしめた絶望。
「新しいお前の担当の生徒だ」
予想はしていた。
私があそこに閉じ込められた時点で、覚悟も出来ていた。
でも、私はまだ私に対して甘すぎた。
渡された一枚の写真。
髪色を抜いた白黒写真にすれば、区別もつかないほどそっくりなその笑顔。
棗の血を色濃く継いだその黒髪と紅目に、みかん譲りのくるくるが加わったその姿。
彼らの愛の結晶をこの手に預かって、なんと謝罪したらいいのかもわからない。
のばらは強く写真を胸に押し当てた。
こんな形で再会することになろうとは、夢にも思っていなかった。
……いや。
思いたくなかった。
皐月の入学が決定したその日から、鳴海の目はあの、過去の旅で見たあの目に戻ってしまった。
生徒の前で不気味なほど振りまかれる愛想笑いと、派手なパフォーマンス。
全身で道化を演じるその姿は痛々しかった。
あの時刻んだ命を断つ覚悟は、結局果たされないまま左腕に残っている。
迷うことなく惹かれた一文字。
すぐに救助された私は、目を覚ましたとたん、真っ白な抗菌室の天井を見ながら涙を流した。
また、何もできなかった。
自分にできることがみつからない。
点滴につながれた無様に血管の浮かび上がる骨ばった自身の手には、じゃらじゃらと鎖がつながれていた。
自由なそらに羽ばたけないどころの騒ぎではない。
自由に人の手を握る自由すら失われてしまったのだ。
そう考えた瞬間妙に情けなくなって、考えることも、足掻くこともやめてしまった。
あぁ、もういいや。
流れに身を任せて生きればいいや。
そんな腐りきった感情が頭をもたげるのを感じて、唐突に蜜柑に会いたくなった。
すごく、すごく、心の奥から身を捩るように蜜柑を求める声が響く。
もう一度会いに来て。
手紙だけだって、声だけだって、髪の毛一本だってあなたを感じることができる。
その暖かい光にもう一度だけ触れさせて。
蜜柑の血を引き継いだその子供たちは、もうまもなく学園にやってくるだろう。
後悔と懺悔に入り交じって、希望の声が微かに響く。
押し殺しても、押し殺しても止むことのない歌。
早くこの学園を破壊して。
悶えるような破壊衝動にかられながら、決して病室に入ることのないペルソナの仮面の奥と目線を合わせる。
ねえ、零さん。
あなたもそう思うでしょう?
今度こそ逆らうまいと、馬鹿げた覚悟もしたはずなのに。
どうしてだろう。
この笑顔を見るたび、このVサインを眺めるたび、彼女の声が脳を揺さぶる。
諦めたらあかん
みんなで生きよう
他人が聞いたらどんなに陳腐な言葉に見えることだろうか。
でも、私にとっては太陽よりもずっと明るい光だったのだ。
蜜柑ちゃん。
わたしはこのままでいいのかな?
いいわけ…ないよね。
失望するよね。
でも、ごめんね。
もう………気力がないの。
「………ごめんね」
のばらの心はこの十数年でこれでもかというほどに疲弊し、麻痺していた。
日常となってしまった血の匂い。
景色となってしまった生徒たち。
何も見えない。
何も聞こえない。
そんな世界で、たった1年触れただけのあなたの温もりが生きる希望だった。
手首に入れた傷から流れた真紅の液体は、私のその希望さえも奪って流れてしまった。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
蜜柑ちゃん…。
あなたはどこにいるの?
end
のばらちゃんは本編では救われましたが実はこれ二年近く前のストックなので本編全く踏まえておりません。
いやはや、ああ終わるとは意外も意外、ちょっと物足りない感もしましたが物足りないないと思わせる作品こそ心にのこるものですから…。
でも残念ながら蛍は探しにいきません。
家にいます。
のばらちゃん、お幸せに。
予想はしていた。
私があそこに閉じ込められた時点で、覚悟も出来ていた。
でも、私はまだ私に対して甘すぎた。
渡された一枚の写真。
髪色を抜いた白黒写真にすれば、区別もつかないほどそっくりなその笑顔。
棗の血を色濃く継いだその黒髪と紅目に、みかん譲りのくるくるが加わったその姿。
彼らの愛の結晶をこの手に預かって、なんと謝罪したらいいのかもわからない。
のばらは強く写真を胸に押し当てた。
こんな形で再会することになろうとは、夢にも思っていなかった。
……いや。
思いたくなかった。
皐月の入学が決定したその日から、鳴海の目はあの、過去の旅で見たあの目に戻ってしまった。
生徒の前で不気味なほど振りまかれる愛想笑いと、派手なパフォーマンス。
全身で道化を演じるその姿は痛々しかった。
あの時刻んだ命を断つ覚悟は、結局果たされないまま左腕に残っている。
迷うことなく惹かれた一文字。
すぐに救助された私は、目を覚ましたとたん、真っ白な抗菌室の天井を見ながら涙を流した。
また、何もできなかった。
自分にできることがみつからない。
点滴につながれた無様に血管の浮かび上がる骨ばった自身の手には、じゃらじゃらと鎖がつながれていた。
自由なそらに羽ばたけないどころの騒ぎではない。
自由に人の手を握る自由すら失われてしまったのだ。
そう考えた瞬間妙に情けなくなって、考えることも、足掻くこともやめてしまった。
あぁ、もういいや。
流れに身を任せて生きればいいや。
そんな腐りきった感情が頭をもたげるのを感じて、唐突に蜜柑に会いたくなった。
すごく、すごく、心の奥から身を捩るように蜜柑を求める声が響く。
もう一度会いに来て。
手紙だけだって、声だけだって、髪の毛一本だってあなたを感じることができる。
その暖かい光にもう一度だけ触れさせて。
蜜柑の血を引き継いだその子供たちは、もうまもなく学園にやってくるだろう。
後悔と懺悔に入り交じって、希望の声が微かに響く。
押し殺しても、押し殺しても止むことのない歌。
早くこの学園を破壊して。
悶えるような破壊衝動にかられながら、決して病室に入ることのないペルソナの仮面の奥と目線を合わせる。
ねえ、零さん。
あなたもそう思うでしょう?
今度こそ逆らうまいと、馬鹿げた覚悟もしたはずなのに。
どうしてだろう。
この笑顔を見るたび、このVサインを眺めるたび、彼女の声が脳を揺さぶる。
諦めたらあかん
みんなで生きよう
他人が聞いたらどんなに陳腐な言葉に見えることだろうか。
でも、私にとっては太陽よりもずっと明るい光だったのだ。
蜜柑ちゃん。
わたしはこのままでいいのかな?
いいわけ…ないよね。
失望するよね。
でも、ごめんね。
もう………気力がないの。
「………ごめんね」
のばらの心はこの十数年でこれでもかというほどに疲弊し、麻痺していた。
日常となってしまった血の匂い。
景色となってしまった生徒たち。
何も見えない。
何も聞こえない。
そんな世界で、たった1年触れただけのあなたの温もりが生きる希望だった。
手首に入れた傷から流れた真紅の液体は、私のその希望さえも奪って流れてしまった。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
蜜柑ちゃん…。
あなたはどこにいるの?
end
のばらちゃんは本編では救われましたが実はこれ二年近く前のストックなので本編全く踏まえておりません。
いやはや、ああ終わるとは意外も意外、ちょっと物足りない感もしましたが物足りないないと思わせる作品こそ心にのこるものですから…。
でも残念ながら蛍は探しにいきません。
家にいます。
のばらちゃん、お幸せに。
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